少年の世界 その2 ジュール・ヴェルヌ『十五少年漂流記』

海底二万里』『八十日間世界一周』などで知られ、H・G・ウェルズとともにSF小説の祖とも呼ばれるジュール・ヴェルヌの少年小説。十五人の少年だけが乗った帆船スルギ号が悪天候により難破し、とある海岸に座礁した。そこは大陸一部なのか、それとも島なのか。14歳のゴードン、13歳のブリアンとドノバンたち年長組が中心になり、少年たちが協力して生き残りをかけた戦いに挑む。
 そんなに期待せずに読み始めたが、思いのほか読ませる。そんなにうまくいかないでしょってツッコみたくなるところはあるけど、描写が詳細で具体的なので何となく納得してしまう。文庫の訳者解説にはウェルズとヴェルヌの違いが紹介されている。ウェルズのアイデアは理解はできるが現実に機械がどうなってるかわからない。それに対して、ヴェルヌの方は、当時の科学に裏付けされており、のちにヴェルヌが書いた空想の機械のほとんどが現実に発明されていたという。どこまでほんとかわからないが、両者の作家的資質の違いがよくわかるエピソードだ。
 少年たちは漂着した場所が無人島であることを知る。船は大破して、脱出は不可能。彼らは救助を待つことに決め、洞穴を住処に共同生活を始める。大統領を投票で選ぶなど疑似国家になっているのがおもしろい。米国人のゴードン、フランス人のブリアン、英国人のドノバンがリーダー格。ブリアン派とドノバン派の対立とか(フランス人のブリアンがかっこよく描かれているのはお愛敬。ドノバンを自分勝手で嫉妬深い少年に描いているので英国ではあまり読まれなかったんだとか)唯一の黒人でコック見習いのモーコーには選挙権がないなど、彼らの共同生活には当時の世界が反映されている。
 原題は「二年間の休暇」。これだけ島の生活が長いと、冒険よりも日常をどう維持していくかが主題になる。住まいを居心地よくしたり、毎日の日課を決めて年少者には勉強をさせたり、ルールを定め違反者には罰を与えたり…。家畜まで飼うようになっちゃうんだからすごい。そういう彼らの絶望しつつも安定した生活が唐突に破られるのは、少年世界への「大人」の闖入。島からの脱出ということを考えるとしかたないのかもしれないが、最後まで少年たちだけで戦ってほしかった。