2+1 その2 江國香織『ぼくの小鳥ちゃん』

「小鳥ちゃんはいきなりやってきた。
 雪の降る寒い朝で、ぼくはいつものように窓の前に立ち、泡の立ったミルクコーヒーを啜っていた」
 仲間とはぐれた小鳥ちゃんと「ぼく」の「二人暮らし」が始まる。小鳥ちゃんはぼくの部屋を見回して「いい部屋」とほめてから、ベッドのわきに小さなバスケットを見つける。「とくにこれはいいみたい。すてきなベッドになるわ」ぼくはすこしためらう。そうしてあげたいけど、これはぼくのじゃなくて、彼女のだから…。ぼくには恋人がいる。もちろん、れっきとした人間の彼女。なんでも上手にできて物知りで、休みの日には車を飛ばしてやってきて、掃除を始めちゃうような。
 彼女がぼくのうちにやってくるとぱたんと写真立ての倒れる音がする。僕の部屋には合計3個の写真立てがあり、写真を飾るのは彼女の趣味である。ぱたんと音がして、「何の音?」と彼女が聞く。「なんだろう」とぼくはとぼける。彼女は小鳥を見て言う。「文鳥の仲間みたいね」小鳥ちゃんは何も言わない。
『居酒屋ゆうれい』を読んだ後、『ぼくの小鳥ちゃん』を読み返したのは、この3人関係に興味を持ったから。幽霊と小鳥ちゃん。2人の間に入ってくる何者か。小鳥ちゃんはぼくと彼女とのデートについてくる。『居酒屋ゆうれい』の幽霊は「夫婦の仕事」を枕もとで見物しようとする。
 たぶん、ぼくたちは完結していないと思うんです。
 彼女がいう「何の音」っていうのは、子供の時の遊びを思い出します。
「とんとんとん、何の音?」「ゆうれいの音」って言った瞬間、みんなが一斉に「きゃー」って駆け出す遊び。
 妻といようが、恋人といようが、その音は響いている。江國香織山本昌代もその音を聞くことができ、それに形を与えたのだと思います。
 
 理屈はともあれ、『ぼくの小鳥ちゃん』は小さくてかわいい本。荒井良二によるイラストはカラーで、絵を見ているだけでも楽しめます。