2012-03-01から1ヶ月間の記事一覧

即興と直観  吉本ばなな『体は全部知っている』

体は全部知っている (文春文庫)作者:吉本 ばなな文藝春秋Amazon よしもとばななは『体は全部知っている』について次のように書いている。「この小説集は、ずっとしたかったこと(寓話的に描く、だとか一筆書きのようなスピード感を持たせる、だとか全然異な…

かたちにならないもののかたち 角田光代『だれかのいとしいひと』

だれかのいとしいひと (文春文庫)作者:角田 光代文藝春秋Amazon 角田光代という作家とは、相性悪いみたいで、たまに目にする文章はほとんど「なんかちがう」だった。でも、恋愛や仕事がうまくいかない男女を描いた短編集『だれかのいとしいひと』は、おもし…

風がはこぶ物語 いしいしんじ『白の鳥と黒の鳥』

白の鳥と黒の鳥 (角川文庫)作者:いしい しんじKADOKAWAAmazon 民話風、童話風、ほら話風、純文学風、稲垣足穂風などなど、『白の鳥と黒の鳥』はバラエティーに富んだ19のお話が収録された短編集。こんないろんな話が一人の作家によって書かれるということが…

暖かさと冷たさ 小川洋子『偶然の祝福』

偶然の祝福 (角川文庫)作者:小川 洋子KADOKAWAAmazon 小川洋子の世界は美しく冷たい。この美しさと冷たさは表裏一体で、昆虫の標本のようなもの。連作短編集『偶然の祝福』の主人公である作家は「失踪者たちの王国」について考える。 「さよならも告げず、未…

日常と推理 北村薫『空飛ぶ馬』

空飛ぶ馬 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)作者:北村 薫東京創元社Amazon 世界的科学者の美人令嬢が完全な密室で血まみれになって発見されるという『黄色い部屋の謎』がそうだったように、推理小説には特別な事件がつきもので、「ダイイング・メッセージ…

密室とメロドラマ ガストン・ルルー『黄色い部屋の謎』

黄色い部屋の謎 (創元推理文庫)作者:ガストン ルルー東京創元社Amazon どういうわけかときどき推理小説を読みたくなる。「密室」とか「意外な犯人」とか「犯人はこの中にいる」みたいな決まり文句の世界。『黄色い部屋の謎』はそんな要素の詰まった推理小説…