2015-01-01から1年間の記事一覧

「少女漫画」発見 萩尾望都『11人いる!』

11人いる! (1) (小学館文庫 はA 1)作者:萩尾 望都小学館Amazon このブログで紹介した東村アキコ、吉田秋生らの漫画は、ぜんぶ漫画にくわしいAさんに教えてもらったもの。だんだん漫画のこともわかるようになってきた(つもりだった)。で、Aさんがそろそろえ…

犬が語る年代記 クリフォード・D・シマック『都市』

都市 (ハヤカワ文庫 SF 205)作者:クリフォード D.シマック早川書房Amazon「これは、火があかあかと燃え、北風が吹きすさぶとき、犬の物語る話の数々です。どこの家庭でも、みんな炉ばたにつどい、小犬たちは黙々と坐って、話に耳をかたむけ、話が終わるとい…

未知のものを描くとは その2 A&B・ストルガツキー『ストーカー』

ストーカー (ハヤカワ文庫 SF 504)作者:アルカジイ ストルガツキー,ボリス ストルガツキー早川書房Amazon ファーストコンタクトもの第2弾は、アルカジイ&ボリス・ストルガツキーの『ストーカー』。タルコフスキーによって映画化されている点以上に、未知の…

未知のものを描くとは その1 スタニスワフ・レム『ソラリスの陽のもとに』

ソラリス (ハヤカワ文庫SF)作者:スタニスワフ・レム早川書房Amazon タルコフスキーの名作映画『惑星ソラリス』の原作で、ポーランドのSF作家スタニスワフ・レムの代表作。いわゆるファーストコンタクトものだが、未知のものを描くのは難しいということがよ…

「かしこ」の小説は猛スピードで 高橋源一郎『君が代は千代に八千代に』

君が代は千代に八千代に (文春文庫)作者:高橋 源一郎文藝春秋Amazon 高橋源一郎はテレビの情報番組にコメンテーターとして出演したり、大学教授の肩書があったり、安保法制反対で話題の学生運動SEALDsとの共著をだしたりする。いわゆる有名人だ。しかし、高…

トランシーバーのゆくえ 今村夏子『こちらあみ子』

こちらあみ子 (ちくま文庫)作者:今村 夏子筑摩書房Amazon 又吉直樹のような有名人が芥川賞を受賞する効果の一つに「文学」への注目が高まるということがある。『こちらあみ子』は、又吉さんのおすすめ本の一冊。本屋で手に取ってみたら、なんと太宰治賞、三…

みんな「手なし娘」を読むといい 河合隼雄『昔話と日本人の心』

昔話と日本人の心 (岩波現代文庫 学術 71)作者:河合 隼雄岩波書店Amazon『昔話と日本人の心』は、河合隼雄の数多い著作の中でもとくに名著として名高い。河合は、西洋の近代的自我の成立過程を解き明かしたユング派分析家エーリッヒ・ノイマンの『意識の起源…

女と男、ふたつの『櫻の園』 吉田秋生『櫻の園』

櫻の園 白泉社文庫作者:吉田 秋生白泉社Amazon 中原俊の映画『櫻の園』(1990)は、思春期の瞬間を結晶させたような透き通った美しさを感じさせる青春映画の傑作だ。その原作である吉田秋生の『櫻の園』を読んで、「女」と「男」という途方もなく古典的な対…

幽霊とリアリズム 三遊亭円朝『怪談牡丹燈籠』(かいだんぼたんどうろう)

怪談 牡丹燈籠 (岩波文庫)作者:三遊亭 円朝岩波書店Amazon カランコロンと下駄の音をさせながら、旗本の娘お露の幽霊が恋人萩原新三郎のもとにやってくる…。三遊亭円朝の『怪談牡丹燈籠』は、この有名な幽霊話と、孝助の仇討ちの顛末が交互に語られる。人物…

因果はめぐる 三遊亭円朝『真景累ヶ淵(しんけいかさねがふち)』

真景累ケ淵 (岩波文庫)作者:三遊亭 円朝岩波書店Amazon「今日より怪談のお話を申し上げまするが、怪談ばなしと申すは近来大きに廃りまして、余り寄席で致す者もございません、と申すものは、幽霊と云ふものは無い、全く神経病だと云ふことになりましたから、…

「俺とは一体何だ?」 中島敦『中島敦全集2』(ちくま文庫版)

中島敦全集〈2〉 (ちくま文庫)作者:中島 敦筑摩書房Amazon この夏、公開された細田守監督のアニメ映画『バケモノの子』は、ひねりの利いた「父と子」の物語であり「強さ」をめぐる物語でもあった。『バケモノの子』に使われていた小説は二つ。ひとつは、九太…

「人非人でもいいじゃないの」 太宰治『ヴィヨンの妻』

ヴィヨンの妻 (新潮文庫)作者:治, 太宰新潮社Amazon 表題作「ヴィヨンの妻」をはじめ、「親友交歓」「トカトントン」など太宰治の最晩年(昭和20年から玉川上水に入水自殺する昭和23年までの3年間)に書かれた八篇を収めた短編集。 学生時代、自尊心が傷つく…

「ひとびとは自分が『自己欺瞞の部屋』のなかにいるのに気附かない」三島由紀夫『仮面の告白』

仮面の告白 (新潮文庫)作者:由紀夫, 三島新潮社Amazon 自分は女に性的な欲望を感じないという事実に気づいてしまった青年が、その事実を世間にも自分にもそれを認めさせまいとして、鎧にも等しい、きらびやかで過剰な言葉の装飾を身にまとおうとする。装飾で…

「世の中に片付くなんてものは殆どありゃしない」 夏目漱石『道草』

道草 (新潮文庫)作者:漱石, 夏目新潮社Amazon 新潮文庫の解説で柄谷行人が『道草』を評して「ネガティヴな面を集中的にとりあげている」というのも納得の重苦しい空気に満ちた小説。主人公の健三は留学先のイギリスから帰国して、大学で教鞭をとっている。そ…

「負け」から生まれる何か 吉田秋生『海街diary1〜6』

海街diary 1 蝉時雨のやむ頃作者:吉田 秋生小学館Amazon この夏公開され、綾瀬はるか、長澤まさみら有名女優の共演でも話題になった『海街diary』は、生と死や家族のありようを問い続けてきた是枝裕和監督の集大成という感じだった。見終わった後、幸福感に…

殺すのは誰か 伊藤計劃『虐殺器官』

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)作者:伊藤 計劃早川書房Amazon この作品を今まで知らずにいたのかというショックを受けた。なぜ伊藤計劃が重要な作家なのか、なぜ『虐殺器官』が読む者に強い衝撃を与えるのか、それはきっとすでに多くの人が論じているに違いない…

創造し、破壊する 飛浩隆『象られた力』

象られた力 kaleidscape (ハヤカワ文庫 JA)作者:飛 浩隆早川書房Amazon 最近、SFを読んでなかった。飛浩隆の名前は、北野勇作の傑作SF『かめくん』(河出文庫)の解説で初めて知った。そして、むさぼるように読んだ。いや〜、新しいのもちゃんと読んどかなあ…

ただ読むという、たのしみ 朝吹真理子『流跡』

流跡 (新潮文庫)作者:朝吹 真理子新潮社Amazon『きことわ』がおもしろかったので、手に取った。本書『流跡』には、朝吹真理子のデビュー作にあたる中編「流跡」と短編「家路」の二篇が収録されている。『きことわ』は25年の年月を経て再会した女性ふたりの官…

言語のふしぎ 円城塔『道化師の蝶』

道化師の蝶 (講談社文庫)作者:円城 塔講談社Amazon『道化師の蝶』は、芥川賞を受賞した表題作と「松ノ枝の記」の二作の中編小説が収録されている。「道化師の蝶」も「松ノ枝の記」も、言葉の持つ不思議をとことんまで突き詰めようとした、いわば「言語小説」…

影とは何か その2 河合隼雄『影の現象学』

影の現象学 (講談社学術文庫)作者:河合 隼雄講談社Amazon 影とは何か。本書『影の現象学』において河合隼雄は、ユングの影のイメージを手がかりに、様々な位相における影のありかたに迫ろうとする。ユング心理学における「影」の概念は、個人的な影のイメー…

影とは何か その1 シャミッソー『影をなくした男』

影をなくした男 (岩波文庫)作者:シャミッソー岩波書店Amazon「どこに影を置き忘れてきなさった?」 「あれまあ、あの人、影がないじゃないの!」 「ちゃんとした人間なら、おてんとうさまが出りゃあ影ができるのを知らねえか」 主人公ペーター・シュレミール…

「侮辱」というより「恥」 白井聡『永続敗戦論』

永続敗戦論――戦後日本の核心 (atプラス叢書04)作者:白井 聡太田出版Amazon「私らは侮辱のなかに生きている」 これは2012年7月「さようなら原発10万人集会」において、中野重治の言葉を引いた大江健三郎の発言だ。白井聡は、本書『永続敗戦論』の冒頭にこの言…

永遠と瞬間 ボルヘス『不死の人(エル・アレフ)』

不死の人 (白水Uブックス―海外小説の誘惑)作者:ホルヘ・ルイス ボルヘス白水社Amazon 読んだ本の内容を忘れるのは、何もボルヘスの短編に限ったことではない。しかし、ボルヘスの短編は、記憶として保存されない何かを語っているような気がしてならない。17…

「描け」と先生は言った 東村アキコ『かくかくしかじか』

かくかくしかじか 5 (マーガレットコミックスDIGITAL)作者:東村アキコ集英社Amazon『かくかくしかじか』を読み終えた。ぼくはそんなに漫画を読まない。東村アキコの他の作品も読んでいないが、とにかく『かくかくしかじか』は特別な作品だ。ぼくは自分も先生…

明快な古典案内 山口仲美『日本語の古典』

日本語の古典 (岩波新書)作者:山口 仲美岩波書店Amazon「古典は、読んだとき、それについて自分がそれまでに抱いていたイメージとあまりにかけ離れているので、びっくりする、そんな書物である。古典を読むときは、できるだけその本について書かれた文献目録…

「お話して!」 スティーブンソン『宝島』

宝島 (新潮文庫)作者:スティーヴンソン,直次郎, 佐々木,秀夫, 稲沢,Robert Louis Stevenson新潮社Amazon 本の最初のページを開き、読み始めるときのわくわく。それはきっと大人に「なにか、お話して!」とせがみ、いよいよ始まるというあのわくわくと同じだ…

「わたしは…」 吉田知子『箱の夫』

箱の夫作者:吉田 知子中央公論社Amazon 表題作「箱の夫」を含む8篇が収録された短編集。「箱の夫」は、サルぐらいの大きさしかない夫との結婚生活を妻の視点から描いた話。夫がクラシックのコンサートに誘ってくれたので、夫を箱に入れて出かける。一見、乱…

からまるロープ 福永信『コップとコッペパンとペン』

コップとコッペパンとペン作者:福永 信河出書房新社Amazon「いい湯だが電線は窓の外に延び、別の家に入り込み、そこにもまた、紙とペンとコップがある。この際どこも同じと言いたい」 福永信の『コップとコッペパンとペン』は、こんな言葉から始まる。「1行…

カルヴィーノの古典案内、あるいはhide-behind イタロ・カルヴィーノ『なぜ古典を読むのか』

なぜ古典を読むのか (河出文庫)作者:イタロ・カルヴィーノ河出書房新社Amazon「1 古典とは、ふつう、人がそれについて、『いま、読み返しているのですが』とはいっても、『いま、読んでいるところです』とはあまりいわない本である」 カルヴィーノは本書『な…

逃走劇の終着点 ジャン=フィリップ・トゥーサン『逃げる』

逃げる作者:J・P・トゥーサン集英社Amazon『浴室』のはなばなしい登場以来、ずっとジャン=フィリップ・トゥーサンを愛読してきた読者として、『逃げる』はトゥーサンの集大成であり、同時に終着点であると強く感じた。 前作『愛し合う』の続編として書かれ…