2018-09-01から1ヶ月間の記事一覧

神父と泥棒 G・K・チェスタトン『ブラウン神父の無心』

ブラウン神父の無心 (ちくま文庫)作者:G.K. チェスタトン筑摩書房Amazon たまに推理小説が読みたくなる。今回手に取ったのは、ブラウン神父。黒いシャベル帽にこうもり傘と茶色の紙包みを抱えた小男。時代的にはシャーロック・ホームズよりちょっと後輩にあ…

相対化を越えて 村田沙耶香『殺人出産』

殺人出産 (講談社文庫)作者:村田 沙耶香講談社Amazon かつて殺人は悪だった。しかし、人口の極端な減少に歯止めをかけるべく、新たなシステムが採用された。それが「殺人出産」だ。「産み人」は10人産んだら一人殺してもいい。つまり、強い殺意が新しい命へ…

やっぱり穴だらけ 小山田浩子『穴』

穴 (新潮文庫)作者:浩子, 小山田新潮社Amazon 予備知識なしで読み始めたのがよかったのだと思う。テンポのいい文体に気持ちよく引き込まれながら、気がついたらまさに穴、作者の思うつぼ、いや、思う穴にはまり込んでいたのだった。おもしろがればいいのか、…

目覚める少女 山尾悠子『ラピスラズリ』

ラピスラズリ (ちくま文庫)作者:山尾 悠子筑摩書房Amazon 日常を忘れたいときは外国文学を読む。ちょっと遠くへ出かけるような気がするからだ。そんなニーズを満たしてくれる日本の小説はあまりないなと思っていたけど、山尾悠子の連作長編『ラピスラズリ』…

とどまることのない流れに印をつける 木皿泉『さざなみのよる』

さざなみのよる作者:泉, 木皿河出書房新社Amazon「死ぬって言われてもなぁ」と死期の迫ったナスミは思う。43歳。癌にむしばまれた体はもう言うことをきかない。目が覚めると、生きていることにほっとしたり、体の辛さから解放されたくて、なんだまだ死んでな…