2017-01-01から1ヶ月間の記事一覧

「人生というものは…」 マンスフィールド『マンスフィールド短編集』

マンスフィールド短編集 (新潮文庫)作者:マンスフィールド新潮社Amazon 長編作家、短編作家という言い方があるけど、マンスフィールドは典型的な短編作家だ。ニュージーランド出身で、ロンドンに留学後イギリスで作品を発表した。34歳という若さで病没するま…

少年の世界 その3 ウィリアム・ゴールディング『蠅の王』

蠅の王 (新潮文庫)作者:ウィリアム・ゴールディング新潮社Amazon ジュール・ヴェルヌの『十五少年漂流記』を読んだついでに、その裏バージョンとも言える『蠅の王』を手に取ったのだけど、「ついで」で読むような気軽な本ではなかった。 時は近未来。第三次…

パリという入れ物 ヘンリー・ミラー『北回帰線』

北回帰線 (新潮文庫)作者:ヘンリー ミラー新潮社Amazon『北回帰線』は、ヘンリー・ミラーが1930年代のパリを放浪した体験をもとにした自伝的処女作であると言ったところで、何を説明したことにもならないだろう。松岡正剛は書評サイト「千夜千冊」意表篇649…

分裂する小説世界 アガサ・クリスティー『そして誰もいなくなった』

そして誰もいなくなった (クリスティー文庫)作者:アガサ・クリスティー,青木 久惠早川書房Amazon アガサ・クリスティーの『そして誰もいなくなった』は、推理小説として破格だ。アガサ・クリスティーと言えば、エルキュール・ポアロやミス・マープルなどの探…

右手と左手の攻防 大岡昇平『野火』

野火(のび) (新潮文庫)作者:昇平, 大岡新潮社Amazon『野火』という小説のことを戦争文学だと思っていた。フィリピンのレイテ島で喀血した主人公「私」(田村)は所属部隊からも野戦病院からも追い出され、しばらくは同じように行き場を失った兵士たちと暮ら…