2011-10-01から1ヶ月間の記事一覧

無垢の魂 ハーマン・メルヴィル『白鯨』

白鯨 上 (岩波文庫)作者:ハーマン・メルヴィル岩波書店Amazon『白鯨』というと思い出すのが、ウディ・アレンの映画『カメレオンマン』。周囲の人間に完璧に同化し、性格、体つき、顔つきときには、人種までを擬態してしまうカメレオン男の話。なぜそのように…

宇宙を飛ぶかもめ 黒川創『かもめの日』

かもめの日 (新潮文庫)作者:創, 黒川新潮社Amazon「ヤー・チャイカ」 ロシア語で「わたしはかもめ」という意味だそう。1963年6月、女性初の宇宙飛行士ワレンチナ・テレシコワが地球を47周した宇宙船から地球との交信の際、何度も口にしたことばだという。「…

体験を語るということ ティム・オブライエン『カチアートを追跡して』

カチアートを追跡して (新潮文庫)作者:ティム・オブライエン新潮社Amazon ティム・オブライエンは『ぼくが戦場で死んだら』、『本当の戦争の話をしよう』、『ニュークリア・エイジ』など一貫してベトナム戦争の従軍体験を題材に小説を書いている。 『カチア…

監獄の中の冒険(奇妙な伝記その1) レイナルド・アレナス『めくるめく世界』

めくるめく世界 (文学の冒険シリーズ)作者:レイナルド・アレナス国書刊行会Amazon メキシコ生まれの実在の修道士にして革命家セルバンド・デ・ミエル師の数奇な生涯を奔放な想像力で描く伝記小説。説教に秀でたセルバンド師。メキシコのお歴々の居並ぶ中、グ…

陶酔と覚醒 金井美恵子『ピクニック、その他の短編』

ピクニック、その他の短篇 (講談社文芸文庫)作者:金井 美恵子講談社Amazon このアンソロジーを編んだ堀江敏幸は文庫の解説で短編「桃の園」から次の一節を引いている。 「(…)桃の木が一番美しく見えるのは、果実が熟してクリーム色の部分が赤く色づいて、…