監獄の中の冒険(奇妙な伝記その1) レイナルド・アレナス『めくるめく世界』

 メキシコ生まれの実在の修道士にして革命家セルバンド・デ・ミエル師の数奇な生涯を奔放な想像力で描く伝記小説。説教に秀でたセルバンド師。メキシコのお歴々の居並ぶ中、グアダルペの聖母について教会の見解と異なる大胆な自説を展開したときから、投獄、監禁、脱獄、放浪が繰り返される過酷な人生が始まる。
『めくるめく世界』の副題には「冒険小説」とあるが、まさに看板に偽りなしである。祖国メキシコを追放されヨーロッパの国々を訪れるくだりはもちろん、獄中においてもやはり「冒険」は続くのだった。レイナルド・アレナスの頭の中はいったいどうなっているのかと思うほど、奇想天外な物語が尽きない泉のように湧いて出る。異端審問による投獄、さらに国外へ追放された不屈の怪僧の伝記を書いた作家もまた逮捕、監禁を繰り返し経験。祖国キューバに失望しアメリカに亡命した。何重にも鎖でがんじがらめにされた修道士は、それでも考えることをやめない。だれも彼(彼ら)の想像力をとめることはできないのである。
 いまここに自由でいることが、奇跡のように思えてくる。というか、ここが監獄でないとだれが言えるだろう。「この城はたくさんの檻でできているようなものです。檻のなかに、またべつの檻がある。あなたはひとつめの檻を出て、ふたつめの檻にいるわけです」