2022-01-01から1年間の記事一覧

ロカンタンの冒険 サルトル『嘔吐』

嘔吐 作者:J.P.サルトル 人文書院 Amazon 『嘔吐』は1938年、サルトルが33歳のとき、刊行された。刊行時期は第二次世界大戦の開戦前年だった。戦後、サルトルが文学のアンガージュマン(社会参加)を唱える前のことであり、本書に関する作者の態度も変化した…

観念と行為の間 三島由紀夫『金閣寺』

金閣寺 (新潮文庫) 作者:三島 由紀夫 新潮社 Amazon 『金閣寺』を読んで思ったのは、それぞれの時代を象徴する事件や出来事があるということだ。今年(2022年)で言えば、7月に起きた安倍晋三銃撃事件とその後、「国葬」に至るまでの一連の出来事ではないだ…

希望(仮)としての世界一周 津村記久子『ポトスライムの舟』

ポトスライムの舟 (講談社文庫) 作者:津村 記久子 講談社 Amazon 朝起きて「仕事に行きたくない」と何度思ったことだろう。でも、その気持ちを押さえつけるために「今がいちばんの働き盛り」などという刺青を腕に彫ろうと考えるナガセの心理には相当な屈託が…

記録する その2 ウィリアム・バロウズ『裸のランチ』

裸のランチ (河出文庫) 作者:ウィリアム・バロウズ 河出書房 Amazon 「序文」にあるように15年間に渡って麻薬中毒だったウィリアム・バロウズは「病とその譫妄状態について詳しい記録」を取っておいたというが、その文学的あるいは反文学的記述、それが『裸…

記録する その1 ケルアック『路上(オン・ザ・ロード)』

オン・ザ・ロード (河出文庫) 作者:ジャック・ケルアック Kawadeshobo Shinsha/Tsai Fong Books Amazon 最初に思ったのは、フィクションというより、記録文学だということだ。ビート・ジェネレーションの代表作『路上(オン・ザ・ロード)』にケルアック自身…

物語と意識の果て 伊藤計劃『ハーモニー』

ハーモニー (ハヤカワ文庫JA) 作者:伊藤 計劃 早川書房 Amazon (ネタバレ)昭和が話題になることがある。戦前の話ではなく、五十年ほど前のこと。電車の中でタバコが吸えたとか、トイレが汲み取り式だったとか。セクハラ、パワハラみたいな言葉も普及してい…

旅をする魂 澁澤龍彦『高丘親王航海記』

高丘親王航海記 (文春文庫) 作者:澁澤 龍彦 文藝春秋 Amazon (ネタバレ)高丘親王は実在の人物である。平安時代の初期に平城天皇の第三皇子として生まれた。のちに出家し空海に弟子入りした。還暦を過ぎて仏法を究めるため、唐に渡り、さらに天竺を目指し、…