2011-01-01から1年間の記事一覧
シンセミア〈1〉 (朝日文庫)作者:阿部 和重朝日新聞社Amazon 1999年に連載が始まり、4年をかけて完成されたという長編小説。悪というか、人間の愚かなふるまいを書き尽くした小説という印象を持った。そして、読みだしたらやめられない。怖いのに、というか…
目まいのする散歩 (中公文庫)作者:武田 泰淳中央公論新社Amazon この本は武田泰淳最晩年の作品で、脳卒中(?)で倒れてから、口述筆記で書かれた世にも不思議な「散歩」の記録。 病を得てからも、泰淳は妻・百合子と明治神宮や靖国神社、代々木公園などを歩…
老妓抄 (新潮文庫)作者:かの子, 岡本新潮社Amazon 長年お座敷をつとめた老妓が、発明で一山当てたいという若い男に住む家と生活費を与え、好きなようにやってごらんという。老妓が年甲斐もなく若い男を囲っているとうわさもたつが、なぜ老妓が自分を養ってく…
陰翳礼讃 (中公文庫)作者:谷崎 潤一郎中央公論新社Amazon 職場の同僚と谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』の話になった。同僚は谷崎が厠の風情に言及するくだりをしきりにほめて、とてもよくわかるという。 「(…)日本の厠は実に精神が安まるように出来ている。それ…
猫町 他十七篇 (岩波文庫)作者:萩原 朔太郎岩波書店Amazon 萩原朔太郎の『猫町』を思い出したのは、村上春樹の『1Q84』を読んだからだ。BOOK2第8章で主人公の天吾は認知症の父親が入院している療養施設に出かける。そのとき列車の中で天吾が読んでいたのが『…
オーランドー (ちくま文庫)作者:ヴァージニア ウルフ筑摩書房Amazon メキシコ独立のために戦った実在の修道士セルバンド師の生涯を描く『めくるめく世界』の中で、レイナルド・アレナスは、ロンドンを訪れたセルバンドとオーランドーとの出会いを描いている…
新装版 ムーミン谷の仲間たち (講談社文庫)作者:トーベ・ヤンソン講談社Amazon 子供のころ、『ムーミン谷の彗星』という本を読んだ。すごくおもしろかったという記憶はあるのに、もうどんな話だったか覚えていない。そんなわけで、ある人が梅田のその日2軒…
ナチュラル・ウーマン作者:松浦 理英子河出書房新社Amazon かつて河合隼雄は女子高生の援助交際について「魂を傷つける」と発言し、多くの賛同と批判の声が寄せられた。反響の中心は「魂」ということばの当否である。ここで河合の発言が適当であるかは問わな…
白鯨 上 (岩波文庫)作者:ハーマン・メルヴィル岩波書店Amazon『白鯨』というと思い出すのが、ウディ・アレンの映画『カメレオンマン』。周囲の人間に完璧に同化し、性格、体つき、顔つきときには、人種までを擬態してしまうカメレオン男の話。なぜそのように…
かもめの日 (新潮文庫)作者:創, 黒川新潮社Amazon「ヤー・チャイカ」 ロシア語で「わたしはかもめ」という意味だそう。1963年6月、女性初の宇宙飛行士ワレンチナ・テレシコワが地球を47周した宇宙船から地球との交信の際、何度も口にしたことばだという。「…
カチアートを追跡して (新潮文庫)作者:ティム・オブライエン新潮社Amazon ティム・オブライエンは『ぼくが戦場で死んだら』、『本当の戦争の話をしよう』、『ニュークリア・エイジ』など一貫してベトナム戦争の従軍体験を題材に小説を書いている。 『カチア…
めくるめく世界 (文学の冒険シリーズ)作者:レイナルド・アレナス国書刊行会Amazon メキシコ生まれの実在の修道士にして革命家セルバンド・デ・ミエル師の数奇な生涯を奔放な想像力で描く伝記小説。説教に秀でたセルバンド師。メキシコのお歴々の居並ぶ中、グ…
ピクニック、その他の短篇 (講談社文芸文庫)作者:金井 美恵子講談社Amazon このアンソロジーを編んだ堀江敏幸は文庫の解説で短編「桃の園」から次の一節を引いている。 「(…)桃の木が一番美しく見えるのは、果実が熟してクリーム色の部分が赤く色づいて、…
法王庁の抜け穴 (1970年) (岩波文庫)作者:アンドレ・ジイドAmazon ローマ法王が実はにせもの!? 聖職者になりすました天才詐欺師プロトスが、ある秘密結社によって法王庁の地下室に幽閉された本物の法王を救い出すなどと奇想天外なうそをでっち上げたことから…
黄金の壺 (岩波文庫)作者:ホフマン岩波書店Amazon 何をやってもダメな大学生アンゼルムスが黄金に輝くかわいい小蛇(!)にひとめぼれ。「(…)愛らしい金の蛇たち、どうかもう一度あの鈴のような声を聞かせておくれ! もう一度だけぼくに目をむけてくれ、き…
セバスチャン・ナイトの真実の生涯 (講談社文芸文庫)作者:ウラジミール・ナボコフ講談社Amazon 長編三冊、短編集一冊、さらに一冊の自叙伝を残し夭折した作家、セバスチャン・ナイトの伝記を書くため、腹違いの弟がその生涯をたどる。語り手である弟にとって…
砂の本 (ラテンアメリカの文学) (集英社文庫)作者:ボルヘス集英社Amazon 文庫の解説者土岐恒二によると、ボルヘスの論文「ジョン・ウィルキンズの分析的言語」は、奇妙な動物分類に関する中国の架空の百科事典の記述を引いているという。それは次のようなも…
残光のなかで (講談社文芸文庫)作者:山田 稔講談社Amazon『残光のなかで』には、1967年に書かれた表題作「残光のなかで」から95年の「リサ伯母さん」まで8つの短編が収められている。年代順に収録されたそれらの短編を読めば、作者山田稔の歩みをたどること…
袋小路の休日 (講談社文芸文庫)作者:小林 信彦講談社Amazon 栗田有起の次に小林信彦。こんな脈絡のない読書もないな。『マルコの夢』が過激な夢の世界とビルドゥングスロマンの融合というサーカスの曲芸のような小説だったので、それと正反対の「よくできた…
マルコの夢 (集英社文庫)作者:栗田 有起集英社Amazon 栗田有起はにがて。きらいというのとはちがう。『ハミザベス』『お縫い子テルミー』『オテル モル』。なんだかんだで読んでるし。 『マルコの夢』もヘンな話。食材を届けに行ったパリの三ツ星レストラン…
心変わり (岩波文庫)作者:ミシェル・ビュトール岩波書店Amazon パリ発ローマ行の汽車に乗り込む「きみ」は、重大な決意を胸に秘めていた。パリの妻子を捨て、ローマの愛人とパリで同棲を始めること。「きみ」はまだ45歳。新しい人生を始めるには、まだ十分に…
ホテル・アイリス (幻冬舎文庫)作者:小川 洋子幻冬舎Amazon 引き潮の時間だけ姿を現す城壁の遺跡が名所となっている海辺のリゾート地。海岸通りのはずれに立つホテル、アイリスは名前こそ美しいが、古びて薄汚れた安ホテル。 17歳の美少女マリは高校へも行か…
朝のガスパール (新潮文庫)作者:筒井 康隆新潮社Amazon 『朝のガスパール』は1991年3月から翌年4月まで朝日新聞に連載された新聞小説で、読者の投書やパソコン通信による意見を取り入れてストーリー展開を変えていくという試みがすごく話題になった。また、…
ガール (講談社文庫)作者:奥田 英朗講談社Amazon 男ですいませんなんて、めんどくさいこというなあと思っていた。もっとひどいのになると人間だものってのもある。もし「だって犬だもの」って犬がいったら、どう思うって言った人がいた。そう。この手の言い…
ブリキの太鼓 1 (集英社文庫)作者:ギュンター・グラス集英社Amazon 池内紀訳の『ブリキの太鼓』が出てる! ここ10年ぐらい、いろんな作品の新訳ラッシュ。新訳がいいとはかぎらないけど、集英社文庫版の翻訳、いまいちだったしなあ。 何年か前に『考える人』…
挾み撃ち (講談社文芸文庫)作者:後藤 明生講談社Amazon 「あの外套はいったいどこに消え失せたのだろう」 何の前触れもなく、この程度の疑問に襲われることは、よくある。ぼくらは日々、何かを思い出したり、忘れたりしている。『挟み撃ち』の中年男の主人公…
サーチエンジン・システムクラッシュ (文春文庫)作者:宮沢 章夫文藝春秋Amazon 「生きているのか、死んでいるのかわからない。そのあいまいさに耐えられるのか」 ある日、学生時代の同級生が起こした殺人事件の新聞記事を目にしたことをきっかけに、主人公の…
真鶴 (文春文庫)作者:川上 弘美文藝春秋Amazon 何の前触れもなく夫は姿を消し、夫の日記には「真鶴」という謎めいた言葉が残されていた。こんなふうに書くと、まるでサスペンスドラマの始まりのようですが、『真鶴』は、夫の失踪によって受けた心の傷から、…
怪しい来客簿 (文春文庫)作者:色川 武大文藝春秋Amazon 「お前はいつも本気になっていない」と教師がいった。「向上心がかけておる。この世には尊いものと、賤しいものとがあるがね。お前は自分がどうなろうとしているか、わかるか」 「どっちにもなりたいで…
怪奇な話 (中公文庫 A 50-6)作者:吉田 健一中央公論新社Amazon 魔法使いが自分の腕試しのために島をうごかす話(「山運び」)とか、月に魅せられ、いつも月のことばかり考えている大工の話(「月」)とか、旅先の宿で瀬戸内海を眺めていると、水軍の船団が現…