きのこの子 栗田有起『マルコの夢』

 栗田有起はにがて。きらいというのとはちがう。『ハミザベス』『お縫い子テルミー』『オテル モル』。なんだかんだで読んでるし。
『マルコの夢』もヘンな話。食材を届けに行ったパリの三ツ星レストランにキノコ管理担当としていきなりやとわれちゃう一馬くんは、「マルコ」と呼ばれる日本原産のきのこを買い付けてくるようオーナーに命じられ、帰国。きのこを探す冒険が始まるのかと思いきや…。
 きのこって、やっぱこわいんだと認識を新たにした。映画『かもめ食堂』で、もたいまさこのスーツケースいっぱいに入っているのもきのこ。そうなると、もう帰れない。泉鏡花の「雨ばけ」という短編も思い出した。油売りを切って捨てると、そいつが首のないまま逃げ出していく。追いつめたと思ったところに「ぶくりとした茸(きのこ)」。
『小説から遠く離れて』で蓮實重彦は「宝探し」「依頼と代行」というキーワードで村上春樹井上ひさし丸谷才一らの作品を論じた。『マルコの夢』も始まりは、この型にぴたりとはまる。「探す」という主題は、そのまま「生きる」ということ。何かが見つかれば、物語は終わる。でも人生はつづく。『お縫い子テルミー』は捨て子ではないが、捨て子っぽい。生活道具と裁縫道具の入った二つのバッグを持って、一人で生きるという。『マルコの夢』の一馬はいわば「きのこの子」。