日本文学
正欲(新潮文庫) 作者:朝井リョウ 新潮社 Amazon 「読む前の自分には戻れない」みたいなことが文庫版の裏表紙に書いてある。確かにそうかもしれない。「正しさを欲する気持ち」が本書のいう「正欲」だとすると、程度の差こそあれ、それを持たずに生きること…
デッドライン(新潮文庫) 作者:千葉雅也 新潮社 Amazon 知人に勧められて読んでみた。あまりわからなかったので、同じ著者の『現代思想入門』(講談社現代新書)を読んでみた。哲学的な内容も含まれていたので、小説理解の助けとなるかと思ったからだ。『現…
むらさきのスカートの女 (朝日文庫) 作者:今村 夏子 朝日新聞出版 Amazon 語り手の謎 (ネタバレ)『むらさきのスカートの女』を読んでいる間ずっと不思議な感覚が付きまとっていた。それは「語り手」に対して漠然と感じる違和感だ。最初はその違和感を常識…
金閣寺 (新潮文庫) 作者:三島 由紀夫 新潮社 Amazon 『金閣寺』を読んで思ったのは、それぞれの時代を象徴する事件や出来事があるということだ。今年(2022年)で言えば、7月に起きた安倍晋三銃撃事件とその後、「国葬」に至るまでの一連の出来事ではないだ…
ポトスライムの舟 (講談社文庫) 作者:津村 記久子 講談社 Amazon 朝起きて「仕事に行きたくない」と何度思ったことだろう。でも、その気持ちを押さえつけるために「今がいちばんの働き盛り」などという刺青を腕に彫ろうと考えるナガセの心理には相当な屈託が…
ハーモニー (ハヤカワ文庫JA) 作者:伊藤 計劃 早川書房 Amazon (ネタバレ)昭和が話題になることがある。戦前の話ではなく、五十年ほど前のこと。電車の中でタバコが吸えたとか、トイレが汲み取り式だったとか。セクハラ、パワハラみたいな言葉も普及してい…
高丘親王航海記 (文春文庫) 作者:澁澤 龍彦 文藝春秋 Amazon (ネタバレ)高丘親王は実在の人物である。平安時代の初期に平城天皇の第三皇子として生まれた。のちに出家し空海に弟子入りした。還暦を過ぎて仏法を究めるため、唐に渡り、さらに天竺を目指し、…
想像ラジオ (河出文庫) 作者:いとうせいこう 河出書房新社 Amazon 2011年3月11日に起こった東日本大震災は東北を中心に未曽有の被害をもたらした。今考えるとあの地震を境に日本は大きく変わった。直接災害に見舞われなかった日本人もひどく精神的ダメージを…
献灯使 (講談社文庫) 作者:多和田 葉子 講談社 Amazon 未曽有の災厄後の世界を描いた小説は数多い。災厄後の激変した日本を描く多和田葉子の『献灯使』も広い意味ではディストピアものなのだが、SF小説的な終末観とは異なる印象を受けた。 百歳を超えてかく…
美しき町・西班牙犬の家 他六篇 (岩波文庫) 作者:佐藤 春夫 発売日: 1992/08/18 メディア: 文庫 本書『美しき町・西班牙犬の犬 他六篇』には表題作など、実に多彩な短編が全部で八篇収録されている。編者はドイツ文学者でエッセイストの池内紀。若くして遺産…
悲しいだけ 欣求浄土 (講談社文芸文庫) 作者:藤枝静男 発売日: 2013/11/29 メディア: Kindle版 藤枝静男の短編「一家団欒」を最初に読んだのは集英社文庫の筒井康隆選『実験小説名作選』というアンソロジーで、死んだ主人公の章が市営バスで郊外の墓地に出か…
機械・春は馬車に乗って (新潮文庫) 作者:利一, 横光 発売日: 1969/08/22 メディア: 文庫 2020年は仕事に追われてなかなか読書が進まない1年だったが、横光利一を読んだことが2020年の読書の大きな収穫だった。本棚に積読として眠っていた『機械・春は馬車に…
お伽草紙 (新潮文庫) 作者:治, 太宰 メディア: 文庫 恥ずかしいという感情が太宰治の基調を成している。生きること、存在することそのものが恥ずかしい。その恥ずかしさをキャラ化したような『人間失格』などの作品が書かれる一方で、『お伽草紙』をはじめと…
転生! 太宰治 転生して、すみません (星海社FICTIONS) 作者:佐藤 友哉 発売日: 2018/09/16 メディア: 単行本(ソフトカバー) 1948年、愛人とともに玉川上水に入水したはずの太宰治がなぜか2017年の現代に転生し、数々の騒動を巻き起こすという奇想天外なお…
焼跡のイエス/処女懐胎 (新潮文庫 い 3-1) 作者:石川 淳 メディア: 文庫 アンソロジーの楽しみの一つは、未読の作家と出会うことだ。澁澤龍彦編『暗黒のメルヘン』で初めて石川淳の短篇「山桜」を読んだ。それがきっかけで新潮文庫の短編集を読んでみたが、…
星の子 (朝日文庫) 作者:今村夏子 発売日: 2019/12/06 メディア: 文庫 (ネタバレ)今村夏子の小説を読むということは、不安と向き合うことである。朝日文庫版『星の子』に収録されている小川洋子×今村夏子の巻末対談「書くことがない、けれど書く」の中で、…
猫を棄てる 父親について語るとき (文春e-book) 作者:村上 春樹 発売日: 2020/04/23 メディア: Kindle版 このエッセイを初めて読んだのは、『文藝春秋』(2019年6月号)に掲載されたときだ。村上春樹が父親の記憶や戦争体験などを息子の立場から語る率直な文…
うどん キツネつきの (創元SF文庫) 作者:高山 羽根子 発売日: 2016/11/19 メディア: 文庫 高山羽根子の名は2019年に「居た場所」と「カム・ギャザー・ラウンド・ピープル」が芥川賞候補になったことで知った。調べてみると、『うどん キツネつきの』という短…
カメリ (河出文庫) 作者:北野勇作 出版社/メーカー: 河出書房新社 発売日: 2019/03/29 メディア: Kindle版 少し遠回りする。『カメリ』を読んでいて思い出したのは、内田百閒の「房総鼻眼鏡」(『第三阿房列車』)の一節だ。 「大きな浪が後から後から打ち寄…
密やかな結晶 (講談社文庫) 作者:小川 洋子 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 1999/08/10 メディア: 文庫 リボン、鈴、エメラルド、切手…。『密やかな結晶』は、身の回りのものが一つ、また一つと消滅していく不思議な島に暮らす人々の詩情とサスペンスにあ…
裏ヴァージョン (文春文庫) 作者:松浦 理英子 出版社/メーカー: 文藝春秋 発売日: 2007/11/09 メディア: 文庫 (ネタバレ) ホラーまがいの小説にアメリカを舞台にしたレズビアンの三角関係を描いた小説、さらには、人のいい初老の婦人が「全米マゾヒスト地…
国境の南、太陽の西 (講談社文庫) 作者:村上 春樹 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 1995/10/04 メディア: 文庫 (ネタバレ) まず、この小説に感じた強い違和感から始めなければならない。『国境の南、太陽の西』は謎が多い小説だが、ぼくが感じたのは仕掛…
江戸川乱歩短篇集 (岩波文庫) 作者: 江戸川乱歩,千葉俊二 出版社/メーカー: 岩波書店 発売日: 2008/08/19 メディア: 文庫 クリック: 11回 この商品を含むブログ (24件) を見る 江戸川乱歩の短篇を読んで感じるのは、東京という大都市なしには乱歩の短篇は成…
久生十蘭短篇選 (岩波文庫) 作者: 久生十蘭,川崎賢子 出版社/メーカー: 岩波書店 発売日: 2009/05/15 メディア: 文庫 購入: 6人 クリック: 35回 この商品を含むブログ (41件) を見る (ネタバレ)久生十蘭の小説の魅力をどう言葉にすればいいのだろうか。ジ…
白痴 (新潮文庫) 作者: 坂口安吾 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 1949/01/03 メディア: 文庫 購入: 3人 クリック: 47回 この商品を含むブログ (78件) を見る 「私はみすぼらしさが嫌いで、食べて生きているだけというような意識が何より我慢ができないので…
ヨオロッパの世紀末 (岩波文庫) 作者: 吉田健一 出版社/メーカー: 岩波書店 発売日: 1994/10/17 メディア: 文庫 クリック: 4回 この商品を含むブログ (43件) を見る ぼくがまだ学生だったとき、ある先生が「吉田健一は『ヨオロッパの世紀末』ですよ」と言っ…
シンドローム(キノブックス文庫) 作者: 佐藤哲也,森見登美彦(解説) 出版社/メーカー: キノブックス 発売日: 2019/04/09 メディア: 文庫 この商品を含むブログを見る (ネタバレ)人間は12歳ぐらいで一回完成すると言った人がいる。なるほど、そうかもしれな…
あひる (角川文庫) 作者: 今村夏子 出版社/メーカー: KADOKAWA 発売日: 2019/01/24 メディア: 文庫 この商品を含むブログを見る (ネタバレ)今村夏子の『あひる』を読んでいると、ときどきキリキリとお腹が痛くなった。読んでいるものの意味を考える前に、…
旅をする裸の眼 (講談社文庫) 作者: 多和田葉子 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2014/01/17 メディア: Kindle版 この商品を含むブログを見る 多和田葉子の小説を読むことは、単なる読書というより「体験」に近い。それは一般的な小説が前提としている要素…
ゼーロン・淡雪 他十一篇 (岩波文庫) 作者: 牧野信一 出版社/メーカー: 岩波書店 発売日: 1990/11/16 メディア: 文庫 クリック: 8回 この商品を含むブログ (18件) を見る バラルダ物語 (福武文庫) 作者: 牧野信一 出版社/メーカー: 福武書店 発売日: 1990/10…