2015-09-01から1ヶ月間の記事一覧

「俺とは一体何だ?」 中島敦『中島敦全集2』(ちくま文庫版)

中島敦全集〈2〉 (ちくま文庫)作者:中島 敦筑摩書房Amazon この夏、公開された細田守監督のアニメ映画『バケモノの子』は、ひねりの利いた「父と子」の物語であり「強さ」をめぐる物語でもあった。『バケモノの子』に使われていた小説は二つ。ひとつは、九太…

「人非人でもいいじゃないの」 太宰治『ヴィヨンの妻』

ヴィヨンの妻 (新潮文庫)作者:治, 太宰新潮社Amazon 表題作「ヴィヨンの妻」をはじめ、「親友交歓」「トカトントン」など太宰治の最晩年(昭和20年から玉川上水に入水自殺する昭和23年までの3年間)に書かれた八篇を収めた短編集。 学生時代、自尊心が傷つく…

「ひとびとは自分が『自己欺瞞の部屋』のなかにいるのに気附かない」三島由紀夫『仮面の告白』

仮面の告白 (新潮文庫)作者:由紀夫, 三島新潮社Amazon 自分は女に性的な欲望を感じないという事実に気づいてしまった青年が、その事実を世間にも自分にもそれを認めさせまいとして、鎧にも等しい、きらびやかで過剰な言葉の装飾を身にまとおうとする。装飾で…

「世の中に片付くなんてものは殆どありゃしない」 夏目漱石『道草』

道草 (新潮文庫)作者:漱石, 夏目新潮社Amazon 新潮文庫の解説で柄谷行人が『道草』を評して「ネガティヴな面を集中的にとりあげている」というのも納得の重苦しい空気に満ちた小説。主人公の健三は留学先のイギリスから帰国して、大学で教鞭をとっている。そ…

「負け」から生まれる何か 吉田秋生『海街diary1〜6』

海街diary 1 蝉時雨のやむ頃作者:吉田 秋生小学館Amazon この夏公開され、綾瀬はるか、長澤まさみら有名女優の共演でも話題になった『海街diary』は、生と死や家族のありようを問い続けてきた是枝裕和監督の集大成という感じだった。見終わった後、幸福感に…