時代からはみ出す 小林信彦『袋小路の休日』

 栗田有起の次に小林信彦。こんな脈絡のない読書もないな。『マルコの夢』が過激な夢の世界とビルドゥングスロマンの融合というサーカスの曲芸のような小説だったので、それと正反対の「よくできた短編」みたいなものを期待して手に取った。
 作品世界の味わいはジョン・チーバーやジョン・アップダイクにたとえられる短編集『袋小路の休日』は、確かに「よくできた短編」を読みたいというぼくの期待に十分応えてくれた。けど、それ以上のものはほとんど含まれていない。時代の感覚についていけず落ちぶれる老編集者、故郷を失い香港と日本をさすらう中国人青年、トークの並外れた才能を持ちながらしだいに表舞台から去っていくタレントなど、転換点にさしかかる時代から「はみ出す」人やものを描く短編集。
 新道ができたとき、その便利さを喜ぶ前に、旧道にあった商店はこれからどうするのだろうというようなことを考えてしまうと語り手はいう。この気分がまさに短編全体の雰囲気を表している。時代の空気を表すという言い方があるが、よくも悪くもそんな感じ。「路面電車」はおもしろかった。やっぱりよくできているだけでなく、おどろきというか、つきぬける感じがほしい。