「少女漫画」発見 萩尾望都『11人いる!』

 このブログで紹介した東村アキコ吉田秋生らの漫画は、ぜんぶ漫画にくわしいAさんに教えてもらったもの。だんだん漫画のこともわかるようになってきた(つもりだった)。で、Aさんがそろそろええかなって感じで出してきたのが萩尾望都。ぼくも名前くらいは知っていたなんていうと、漫画好きからは静かに下を向かれるのがオチだろう。ともかくぼくは萩尾望都の『11人いる!』を読んで初めて少女漫画というものがわかった気がする。
 ときは惑星間の交易が行われる宇宙時代。宇宙大学の受験には、各惑星の精鋭たちが集まってくる。最終試験は10人一組になった受験生が50日以上をさまざまな試練の待ち受ける宇宙船で過ごすという実技試験。期間中一人でも脱落者を出せば、全員が不合格。宇宙船内で初めて顔を合わせた受験生たちは、そこになぜか11人いることを知る…
 宇宙空間を舞台にしたSF状況、限定された場所と時間に11人目は誰かという「犯人探し」というサスペンス要素、さらにそこから生じる個性豊かな登場人物同士の関係など、『11人いる!』の緻密な設定には驚かされるが、重要なことは、どんなにSFやサスペンスの要素が盛り込まれていようと、やはり『11人いる!』は「少女」漫画だということだ。その象徴的な登場人物がフロル。フロルは男でも女でもない。フロルの星では、長じて男女を選ぶことができる。フロルの星は一夫多妻制。フロルは長子ではないので、宇宙大学の試験に合格しなければ、女として年の離れた男のもとに嫁がなければならない。
 美しさに男も女もないように、フロルもまた美少女であり、美少年である。大人の男であることが物事の基準である社会で、女に生まれるというとがどんなことなのかを男は考えない。同時代、社会を共有していながら、女が女になるという不安や葛藤を、ぼくはこれまで考えてなかったという事実を『11人いる!』は教えてくれた。ウィキペディアには発表当時少女漫画にはまれな本格SFだと衝撃を与えたとあるが、SF的設定を得て描きうる「少女」があるということである。目からうろこ。異文化はすぐそばにある。