評論

みんな「手なし娘」を読むといい 河合隼雄『昔話と日本人の心』

昔話と日本人の心 (岩波現代文庫 学術 71)作者:河合 隼雄岩波書店Amazon『昔話と日本人の心』は、河合隼雄の数多い著作の中でもとくに名著として名高い。河合は、西洋の近代的自我の成立過程を解き明かしたユング派分析家エーリッヒ・ノイマンの『意識の起源…

影とは何か その2 河合隼雄『影の現象学』

影の現象学 (講談社学術文庫)作者:河合 隼雄講談社Amazon 影とは何か。本書『影の現象学』において河合隼雄は、ユングの影のイメージを手がかりに、様々な位相における影のありかたに迫ろうとする。ユング心理学における「影」の概念は、個人的な影のイメー…

「侮辱」というより「恥」 白井聡『永続敗戦論』

永続敗戦論――戦後日本の核心 (atプラス叢書04)作者:白井 聡太田出版Amazon「私らは侮辱のなかに生きている」 これは2012年7月「さようなら原発10万人集会」において、中野重治の言葉を引いた大江健三郎の発言だ。白井聡は、本書『永続敗戦論』の冒頭にこの言…

明快な古典案内 山口仲美『日本語の古典』

日本語の古典 (岩波新書)作者:山口 仲美岩波書店Amazon「古典は、読んだとき、それについて自分がそれまでに抱いていたイメージとあまりにかけ離れているので、びっくりする、そんな書物である。古典を読むときは、できるだけその本について書かれた文献目録…

カルヴィーノの古典案内、あるいはhide-behind イタロ・カルヴィーノ『なぜ古典を読むのか』

なぜ古典を読むのか (河出文庫)作者:イタロ・カルヴィーノ河出書房新社Amazon「1 古典とは、ふつう、人がそれについて、『いま、読み返しているのですが』とはいっても、『いま、読んでいるところです』とはあまりいわない本である」 カルヴィーノは本書『な…

浮かび上がる古層性 三浦佑之『古事記講義』

古事記講義 (文春文庫)作者:三浦 佑之文藝春秋Amazon 古老が語るというスタイルの『口語訳 古事記』が話題になった三浦佑之による古事記論。「神話とは何か」「英雄叙事詩は存在したか」「英雄たちの物語」「出雲神話と出雲世界」という四つのテーマから古事…

今何が起こりつつあるのか 内田樹編『街場の憂国会議』

街場の憂国会議 日本はこれからどうなるのか (犀の教室)作者:内田樹,小田嶋隆,想田和弘,高橋源一郎,中島岳志,中野晃一,平川克美,孫崎享,鷲田清一晶文社Amazon 安倍首相が気持ち悪い。政策も顔も話し方も何もかも。2013年12月の特定秘密保護法案の成立をはじ…

夢という回路 西郷信綱『古代人と夢』

古代人と夢 (平凡社ライブラリー)作者:西郷 信綱平凡社Amazon 西郷信綱の『古代人と夢』は、昔の人は夢をこんなふうに考えていたのかという新鮮な驚きに満ちている。王位継承者を夢で決めたり、夢の中に現れた観音様のお告げを信じたり、夢の売り買いまです…

男が語る脱「男」 森岡正博『感じない男』

感じない男 (ちくま新書)作者:森岡 正博筑摩書房Amazon 世間に蔓延する制服フェチやロリコンの原因を「男の不感症」に求める森岡正博の『感じない男』がすごいのは、やはり男の性にまつわる体験や嗜好を徹底して一人称の主語で語っているところだろう。「男…

1冊で3度おいしい 内田樹『映画の構造分析』

ハリウッド映画で学べる現代思想 映画の構造分析 (文春文庫)作者:内田 樹文藝春秋Amazon『エイリアン』とフェミニズムの関係とは? ヒッチコック映画における鳥の意味とは? スラヴォイ・ジジェクの『ヒッチコックによるラカン』に着想を得たという本書は、…

真実の苦み 小谷野敦『聖母のいない国』 

聖母のいない国―The North American Novel (河出文庫)作者:小谷野 敦河出書房新社Amazon「北米文学を読む」という副題が付されている本書は、マーガレット・ミッチェル、マーク・トウェイン、ヘミングウェイ、サリンジャー、ジョン・アーヴィングといった有…

『成熟と喪失』に始まる 加藤典洋『アメリカの影』

アメリカの影 (講談社文芸文庫)作者:加藤 典洋講談社Amazon 江藤淳の長編評論『成熟と喪失』(1967年刊)は、小島信夫『抱擁家族』や庄野潤三『夕べの雲』といったいわゆる第三の新人の作品を取り上げ、高度成長下における「母」(女性、自然)の崩壊とその…

アンパンマンは中世的? ホイジンガ『中世の秋』

中世の秋 上巻 (中公文庫 D 4-3)作者:ホイジンガ中央公論新社Amazon 中世ヨーロッパと聞いて何を思い浮かべるだろうか。騎士道精神、王侯貴族の宮廷生活、教会の権威、魔女狩り…。いくつか単語が断片的に浮かぶ程度。そんなぼくが読んでもおもしろいのが、歴…

「物語」と「文学」のあいだ  大塚英志『物語の体操』

物語の体操―みるみる小説が書ける6つのレッスン (朝日文庫)作者:大塚 英志朝日新聞社Amazon「みるみる小説が書ける6つのレッスン」と副題の付された本書は、大塚英志が専門学校で担当していた講義もとにしていて、以下のような人々を読者として想定している…

これを「甘い」とする 岡倉覚三(岡倉天心)『茶の本』

茶の本 (岩波文庫)作者:岡倉 覚三岩波書店Amazon 1906(明治39)年、『THE BOOK OF TEA』という小さな本がニューヨークの出版社から刊行された。時代は日露戦争の2年後。歴史の教科書では岡倉天心という名で載っていた、その人の主著は3冊。すべてが英語で書…

話芸としてのイケズ 入江敦彦『イケズの構造』

イケズの構造 (新潮文庫)作者:敦彦, 入江新潮社Amazon いけずな人やとかいけず言わんといてとか、関西では普通に使われてる言葉なんですかね。辞書には「意地悪」と出てます。 しかし、入江敦彦はイケズとは意地悪とも、陰険とも、皮肉とも、嫌味とも、毒舌…