今何が起こりつつあるのか 内田樹編『街場の憂国会議』

 安倍首相が気持ち悪い。政策も顔も話し方も何もかも。2013年12月の特定秘密保護法案の成立をはじめ、解釈改憲による集団的自衛権閣議決定しようとする動きなど、これまでには考えられなかったようなことが次々に起こっている。今年(2014年)2月の衆議院予算委員会日本維新の会の議員からの質問に答えた安倍首相は憲法改正の発議要件を定めた憲法96条改正の必要性を訴えている。それから半年も経っていない現在、解釈改憲という手法で、歴代内閣が認めてこなかった集団的自衛権の行使容認に舵を切ろうとしているのである。
 ぼくはそもそも憲法改正に反対の立場だが、日本を集団的自衛権を行使できる国にしたいなら、少なくとも憲法改正をめざすのが筋ではないだろうか。解釈改憲というようなことを言いだしているのに、いかにも真めかして「限定的集団的自衛権」とか言って、ほんとに気持ち悪い。こんなこと民主主義国家として許されることではないにもかかわらず、特定秘密保護法案のときと比べても反対運動などの盛り上がりはいまひとつだし、マスコミもあまり騒いでいない。
 いったいどうしちゃったんだろう、日本という国はこれからどうなっていくのだろうという不安に答えてくれるのが、本書『街場の憂国会議』。サブタイトルはその名もずばり「日本はこれからどうなるのか」。編者の内田樹をはじめ、高橋源一郎、中島岳史、鷲田清一といった論客がさまざまな視点から安倍政権下の日本の政治状況を論じている。
 なかでも安倍政権が支持される理由を「株式会社化」というキーワードで論じた内田樹の「株式会社化する国民国家」は、国家・行政は株式会社ではないという当たり前でいて、ちょっと忘れかけていた事実に気づかせてくれる。「民間ならありえない」という言葉で行政の不経済や効率の悪さを指摘して人気を博してきた橋下徹大阪市長の存在は、ぼくを含め多くの人がこの単純な事実を忘れていた証拠である。
 また中島岳史の「空気と忖度のポリティクス」は、「権力は多くの場合、直接的な介入によって行使されるのではなく、現場の勝手な忖度によって最大化する」と述べている。右傾化する時代の空気を感じ取った人々のトラブルと回避しようと先回りする行動が、自主規制という形で自由な発言や運動を阻害する。
 今の安倍政権の動きに多くの人が驚いていないように見えるなら、それは日本が民主主義国家であることを、うっかり忘れているからである。しかし、それにしても現政権のやってることはおかしいという人には、ぜひ手に取ってほしい一冊。