密室とメロドラマ ガストン・ルルー『黄色い部屋の謎』

 どういうわけかときどき推理小説を読みたくなる。「密室」とか「意外な犯人」とか「犯人はこの中にいる」みたいな決まり文句の世界。『黄色い部屋の謎』はそんな要素の詰まった推理小説の古典的名作。ポオの『モルグ街の殺人』とかドイルの『まだらの紐』のような密室事件に本文中に言及があり、それらを超えるものを作ったという作者ガストン・ルルーの意気込みと自信が感じられる。
 原子物理学の権威スタンガースン博士の令嬢マチルド(ブロンドの美女)が、密室となった「黄色い部屋」で血まみれの状態で発見される。駆け出しの新聞記者ルールタビーユが相棒とともに現場に駆けつけると、パリ警視庁から派遣された名探偵ラルサンがすでに捜査を始めていた。深い森にたたずむ古城での惨劇、ルールタビーユとラルサンの推理合戦、立て続けに起こる第二、第三の怪事件、そして明かされる意外な真犯人まで、フルコースの味わい。
 この小説が書かれたのは1907年。解説には現代の推理小説を読みなれた読者にとっては「やや古色蒼然たる感じ」がするかもとある。「現代の推理小説」がどんなことになってるのかよく知らないし、定型の世界に遊ぶんだから、それでいい。この手の小説を読んでるわくわく感は、事件の謎を解く鍵が出そろったところあたりがマックスで、その後、探偵の種明かしが始まったり、事件の背後にメロドラマの舌がチロチロと見え隠れするようになると、だんだんまったりした感じになってくる。探偵のおしゃべりが冗長に感じられるところがちょっとあるけど、おいしいコーヒーをいれて、休みの午後に読むにはちょうどいいと思う。