風がはこぶ物語 いしいしんじ『白の鳥と黒の鳥』

 民話風、童話風、ほら話風、純文学風、稲垣足穂風などなど、『白の鳥と黒の鳥』はバラエティーに富んだ19のお話が収録された短編集。こんないろんな話が一人の作家によって書かれるということが驚きだし、どれもおもしろいんだから、それでいいようなものなんだけど、これがほんとに民話だったり、昔話だったら納得するというか、いしいしんじってすごいなでおわっちゃうというか、そんな気がしなくもない。みんなで読みあって、どの話が好き?みたいな会話もできるかも。いしいしんじという作家が書いたというより、風がはこんできた話を彼が書き取ったみたいな感じ。
 どの話も技巧的で作り物めいた印象がある一方で、人工的なものからは消し去られているような生のなまなましい側面が唐突に現れる。たとえば「肉屋おうむ」の屠殺場面「おまえさんらはむだ死にじゃないぞ」。仮に物語が生きているとして、その物語が生きるために要求する生理はきちんと持っている。そのなまなましい感じ、いわば毒の量さえきちんと調節されてる感じがするのが、おもしろいんだけどという感想につながるんだと思う。