話芸としてのイケズ 入江敦彦『イケズの構造』

 いけずな人やとかいけず言わんといてとか、関西では普通に使われてる言葉なんですかね。辞書には「意地悪」と出てます。
 しかし、入江敦彦はイケズとは意地悪とも、陰険とも、皮肉とも、嫌味とも、毒舌とも、あまのじゃくとも、いじめとも違うと言っています。
  市バスの中で耳にしたという会話(ヤンキー姉ちゃんと着物姿の老婆)
「どう見ても、おばあちゃんのほうが先に逝くんやから今のうちに座っときよし」
「おおきに、おおきに、ほな、おっちんさせてもろて、冥土の土産にあんたのけったいな格好でも眺めさせてもらうわ」
 これはもう一種の話芸ですね。作者は「イケズ」を一種の無形文化財のように考えているようです。応仁の乱以降、洛中の京都人が自らとその文化を守るために発達させてきた「よそさん対策」。何でもわかりやすいのがいいというアメリカ的な考え方が蔓延している昨今、こういうのは貴重ですよね。
 でも、豆腐屋さんで木綿を冷奴で食べると言っただけで「白うて四角いだけでええんやったら石鹸でも食べときよし。そら木綿にしたかて泡吹いて倒れることはないけどな」というお婆さんの言葉が親切心から出ていることを理解するのに何年かかることやら…。