輝きと持続 スティーヴン・ミルハウザー『イン・ザ・ペニー・アーケード』

 スティーヴン・ミルハウザーの目を見張るような想像力を存分に楽しめる中・短編集。精密なからくり人形を作る天才職人の話「アウグスト・エッシェンブルク」。時計屋のショーウインドウを飾る子供のおもちゃのようなからくり人形から始まって、次第に精密の度とバリエーションを増していく過程が、青年アウグストの成長と挫折とともに描かれている。
 アウグストの才能を理解するハウゼンシュタインは、からくり人形職人としての才能はアウグストにかなわないものの、プロデューサーとしての才能があった。ハウゼンシュタインは、アウグストのとんがった才能をどうすれば大衆に受け入れられるか、どうすれば持続的に興業として成立させられるか知っていた。質を落とし、大衆の好みに合わせること。しかし、それはアウグストにとって、もっとも許しがたいことだった。
「彼(アウグスト)は自分が時代遅れだと言われるのも、時代に属していると言われるのもひとしく嫌だった。(…)大切なのは、ある日くすんだ緑のテントにいた自分の内部で何かがぱっと輝き、以来それがいまだに消えていないという事実なのだ」
 何かがぱっと輝くこと。その輝きこそ、すべてであって、アウグストにとって大衆とか、世間の評価とかは関係ない。ただ、輝きは一瞬のものである。「いまだに消えていない」のは輝きの記憶であり、輝きではない。その記憶が胸の中にとどまり続けるかどうか、それが大事なことなのだと思う。
 ミルハウザーの場合、いわゆる「成長」の課題は、この輝きの記憶に関わるもので、あらかじめ挫折が決定づけられている。表題作「イン・ザ・ペニー・アーケード」は、かつての輝きをふたたび見出そうと、少年が記憶をたよりにさびれたゲームセンターの中をさまよう。輝きそのものとは、「成長」の概念を欠いたものである。「帝の宮殿はきわめて広大であり、一人の人間が一生かかっても全部の部屋を通り抜けることはできない。」(宮殿「東方の国」)
ああ、もうここまで来るとカフカですね。