フェイクプレーン、弟、気がつけば朝 まんしゅうきつこ『アル中ワンダーランド』

「地球を大切に…」空を見上げれば、飛行機が語りかけてくる。きつこさんは思う。あれは飛行機に擬態したUFOだと。「おーい、UFOなのばれちゃってますよ」きつこさんは、早速弟に電話する。飛行機がしゃべりかけてきたんだよ、フェイクプレーンって言ってね…。「オマエ、酒飲んでるだろ」そう、きつこさんはアル中だった。
 ブログが評判を呼び、漫画家デビューを果たしたきつこさんは仕事のプレッシャーから酒を飲み始め、地獄への扉を開けてしまう。『アル中ワンダーランド』は、アルコール依存症に苦しむ日々を描くエッセー漫画。携帯をなくす、友達が離れる、トークイベントでは、まさかのポロリ。果ては自殺願望まで。生来の真面目さ、極度のあがり症、仕事のストレス…。飲む理由はいくらでもある。そして、泥酔し、醜態をさらす。気がつけば朝。ぼくはお酒が好きだけど、こんな飲み方はできない。気持ち悪くなるからだ。日本酒5合、多いときはウィスキーボトル1本が普段の飲酒量だと医者に言うきつこさんは、まさに「内臓エリート」。
 それにしても、まんしゅうきつこというペンネーム。巻末の鼎談で小田嶋隆が「まんしゅうさんには自分は幸せになっちゃいけないんだというような強い意志を感じます」と言っているように、どうもきつこさんは「ふつう」が苦手なんじゃないかと思う。このことはブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」の「妹」という記事を見ればよくわかる。はずかしい。だから、自分のことをブサイクに描く。そして、酒を飲む。「オマエ、いい加減にしろよ」「でもな、おっぱい出したのはよかったぞ」と言ってくれる弟を支えに、きつこさんはこっちに帰ってきた。