青春というファンタジー 森見登美彦『夜は短し歩けよ乙女』

「黒髪の乙女」。心は清く見目麗しい京大1回生に「先輩」は一目惚れ。
さあ、よってらっしゃい。見てらっしゃい。
ウワバミ女に自称天狗男、スケベおやじに三階建て電車を乗り回す高利貸し
世にも怪しげな登場人物が「黒髪乙女」の行く手に現れる。
エロおやじには「おともだちパーンチ!」
乙女の運命やいかに!
先輩の想いは遂げられるのか!
 お代は見てのお帰りとばかり、「読者諸賢」に「熟読玩味」をお願いする口上のオープニングからして、凝った文体。はじめはちょっと鼻につくけど、それはしょーがない。この小説は妄想と現実、希望と含羞が混沌とした青春ファンタジーなのだから。
 青春時代は誰もが物語の主人公。でも、ある時期を過ぎると自分には主人公どころか端役さえ与えられていないことに気づきます。だからこそ作者は「御都合主義」で「誰もが赤面必至のハッピーエンド」を準備してお話を盛り上げます。
 青春時代はファンタジーというよろいに守られている。そのよろいを脱ぎ捨てるとき、はじめて誰かに出会うんだとして、いまここにファンタジーを生きる主人公たちの幸せを願わずにはいられません。