SF小説? 柴崎友香『その街の今は』

 心斎橋そごうが不況で閉店して、その後新装オープンしたけど、結局またつぶれて、大丸の別館として再オープンした。『その街の今は』はちょうどそごうが新装オープンした2003年頃の心斎橋界隈の話。
 カフェでバイトしている歌ちゃんは現在失業中。友達の智佐とか百田さんと合コンしたり、クラブで知り合った年下の良太郎とときどき会うようになったり。
 歌ちゃんの趣味は大阪の古い写真を集めること。
「ここが昔どんなんやったか、知りたいねん」

 古い写真には今とまったく違う大阪の街が写っているんですが、その中に今と変わらない大丸百貨店があったりする。それを見ると、いま自分がいるこの場所と何十年も前の写真の中の大阪が同じ場所だったって実感できるっていうんです。

 柴崎友香の小説には、特別な出来事は何も起こりません。登場人物もフツーの人ばかりです。歌ちゃんは自転車にのって、街を走る。街はまるで生き物のようにその姿を変化させていく。作者の目はカメラのレンズのように何もかも見ているんです。時間が流れ、季節がすぎる。誰かがおしゃべりしたり、お茶飲んだりしてる。それは50年前の大阪の写真の中の人々も同じ。その大阪が今の大阪とつながってるという不思議さというか…。
時間と場所を超えるSF小説を読んだような読後感です。