変わるものと変わらないもの 江國香織『間宮兄弟』

「恰好わるい、気持ち悪い、おたくっぽい、むさくるしい、だいたい兄弟二人で住んでいるのが変、スーパーで夕方の五十円引きを待ち構えて買いそう、そもそも範疇外、ありえない、いい人かもしれないけれど、恋愛関係には絶対にならない」
 ここまで容赦ないと思わず笑っちゃうんですが、間宮兄弟を知っている女たちの意見を総合するとこうなるんだそうです。もちろん、間宮兄弟も恋をします。兄・明信はごく控えめに憧れを抱き、弟・徹信は猪突猛進し、砕け散ります。
 でも、恋人がいないからといって、不幸だとは限りません。というより、彼らはたいていの大人たちより楽しそうに生きている。読書、音楽、映画鑑賞、スポーツ観戦、クロスワードパズル、ジグソーパズル、鉄道模型…。間宮兄弟は多趣味なんです。
 だから、兄弟が催した「夏の夕べカレーの会」に葛原依子先生や大学生の直美ちゃんがやって来たのは、彼女たちの気の迷いや強い好奇心のせいだったかもしれない。たとえ依子の明信に対する第一印象が「最悪だわ」であったとしても、兄弟は彼女たちの心になんらかの印象を残したので、「花火大会」への招待まで受けてしまうことになる。
 直美の最近のデートといえば、彼氏とラブホテルに行って、そのあとファストフードで空腹を満たすというあじけないもの。直美が花火大会で感じた楽しさの何%かは、本来なら彼氏とのつきあいで得るべきものです。
 だからといって、直美ちゃんが兄弟を好きになったり、つきあったりすることはない。でも、葛原依子にも直美ちゃんにもその後、確実に変化が訪れる。その変化は、間宮兄弟という環境に触れることによって生じたものです。
 間宮兄弟はこれからも変わらない。夜の公園で紙飛行機を飛ばして遊ぶ美しい場面は、兄弟のこの世とのかかわり方を暗示しているような気がします。