過去との死闘 坂東真砂子『死国』

 幼なじみで、いちばん仲がよかった沙代里ちゃんはどうしているだろう。小学生時代を過ごした高知の山間の村を20年ぶりに訪れた比奈子。しかし、沙代里は中学時代に亡くなっていた。その上、比奈子は沙代里の母・照子が娘を生き返らせようとしている衝撃の事実を知る。死者の歳の数だけ、四国八十八所霊場を逆に巡る禁断の「逆打ち」を行っているという。そして、比奈子の周囲で次々に不気味な現象が起こり始める。
 死者をよみがえらせる「逆打ち」という言葉だけで、十分怖いんですが、このあと比奈子が直面するのは、沙代里に象徴される幽霊としての過去でした。30代になり、自分の人生と向き合う時を迎えていた比奈子に対して、運命が要求したのは、自分の過去との、そして、自分が親友だと思っていた沙代里との死闘だったのです。
 前に進むためには、自分の過去と対決しなければならないということを、そしてそこには、これまで自分が目を背けていた事実が隠されているということを、こんなにもわかりやすく教えてくれる物語はないと思います。
 幽霊との対話は、ときとしてつらいもの。比奈子が得たものと失ったものの大きさがそれを物語っています。