ホルモー2回戦 万城目学『ホルモー六景』

 オニを駆使して戦う奇妙な競技「ホルモー」を描く青春ファンタジー鴨川ホルモー』の続編。『ホルモー』本編の作中人物から意外な名前までが登場し、六つの恋が描かれる短編集。「実はあのとき、こんなことがありました」という本編の裏事情がいろいろ明かされるのも楽しみの一つだけど、何といっても短編によってがらりと変わる趣向が見どころ。同じホルモーでも見る角度によってこんなに違うっていう新鮮さがある。それを感じるためにも、先に『鴨川ホルモー』読んでから、こっちかな。
「ホルモー」は壮大なほら話なわけだけど、オニが飛び交う競技が繰り返されるいわば動の本編と違って、こちらは「ホルモー」とは何かといった静の趣がある。恋というテーマが選ばれたのは、青春小説だからってこともあるだろうが、それ以上に「恋」は「ホルモー」に似ているからだと思う。どちらも自由にならないもの、何かにつかまってしまうような感覚があるものだ。本編の読者なら、オニの使役者たる阿倍や高村たちがオニにひどく苦しめられもしたことをよく知っているし、オニを全滅させたときに「ホルモオオオォォォーッ」という雄叫びをあげた者の身には、何かが起こるともいう。
 要は、異界とのつながりができるってこと。21世紀の現代においても、意外にも異界がぼくらを離さない。でも、だからって、恋が異界とどうつながる? それは第六景「長持の恋」読めばわかる。立命館大学白虎隊第五百代会長細川珠実の恋は、彼女の右手が勝手に始めてしまう。まるで、何かにあやつられているかのように。ぼくはこの「長持の恋」がいちばん好き。