ことばの国 その1 青木淳悟『四十日と四十夜のメルヘン』

 チラシ配りのバイトをしている男が配りきれなかったチラシをうちに持って帰ってくる。チラシはどんどんたまっていく。男はチラシの裏に日記を書いたり、童話を書いたりしている。現実世界が日記に記述されているはずが、いつのまにか日記が現実を追い越してしまう。7月4日から7日のたった4日分の日記が執拗に繰り返され、どんどん細密になっていくうちに、小説空間は現実との境目をなくしている。
 また「クレーターのほとりで」では原始人が歌う。

  みんなねているよるなのに
  ひるのしごとするアブラハム
  カマドに火をいれて
  たましいのしっぽみつけた

 チラシ、小説、童話、歌、歴史的記述…。そこに描かれているのは「ことばが生まれる瞬間」「歌が生まれる瞬間」であり、ことばと人間が不可分であるかのようなあり方なのかなという気がした。
 でもちゃんと読めてるのかなあ、と不安にさせもする「現代文学」。