運命は待ってくれない メリメ『エトルリヤの壺 他五篇』

 神話や昔話を読んでいて感じる違和感のひとつは、手加減のなさである。主人公に襲い掛かる過酷な運命、容赦なしの、無差別の暴力にさらされる姿は、圧倒的な自然の前にして無力な人間の姿というものを連想する。大地震は、子供や美人がいるからといって、揺れを緩やかにしたりはしない。映画やドラマで犯人がちらりと良心をのぞかせ、一瞬のためらいを見せたことが命取りになるのと好対照である。心理のありようとは別の行動原理を持つ物語がある。
 メリメの短編小説に描かれているのは、心理的葛藤によるドラマではなく、神話のように過酷な運命に翻弄される、あるいは一撃で倒される作中人物の姿である。裏切りを働いた子供の悲劇「マテオ・ファルコネ」、黒人奴隷商人の数奇な運命を描く「タマンゴ」はずしんとくる。確か阿刀田高が「タマンゴ」を傑作短編のひとつとして挙げていたと思う。きりりと引き締まったぜい肉のない短編を味わいたい人はぜひ。